自動化の相談を受けると、たいてい「どこまで自動にできますか」と聞かれます。私が先に決めているのは、その逆です。どこを人に残すかを先に決めます。
送り状づくりは、地味に時間を食う仕事
商品を発送する仕事をしていると、配送伝票——いわゆる送り状の作成が毎日発生します。宛先、品名、個数、サイズ。ひとつひとつは数分の作業ですが、件数が積み上がると馬鹿になりません。しかも単純な転記作業なのに、間違えると迷惑がかかるという、いちばん気を遣う種類の仕事です。
そこで自動化に踏み切りました。注文の情報から、宛先も品名も個数も自動でそろえて、伝票の内容を画面に出すところまで。
それでも「発行」だけは人が押す
ここで決めたのが、今日の本題です。
確認画面を出すところまでは全部自動。ただし「発行」ボタンを押す最後の操作だけは、必ず人が行う。
理由は単純で、発行は取り消しが効かない操作だからです。伝票を出してしまえば、番号が確定します。集荷にも回ります。費用も発生します。間違っていたと後から気づいても、「無かったこと」にはできません。
一方で、確認画面を出すところまでは、何度やり直しても実害がありません。間違っていれば作り直せばいい。この違いが、そのまま線引きになりました。
実際の運用はこうなっている
流れにすると、こうです。
- 注文の情報から、宛先・品名・個数・サイズを自動でそろえる(自動)
- 伝票の内容を確認画面に表示する(自動)
- 担当者が画面を見て、宛先と品名と個数を目で確認する(人)
- 問題なければ発行ボタンを押す(人)
3と4は、慣れれば十数秒です。1と2の手間が消えているので、全体としては大幅に楽になっています。時間を稼いだのは自動化の部分で、安全を担保しているのは人が残った部分、という役割分担です。
この形にしてから、誤発行のトラブルは起きていません。もちろん件数も期間も限られた話で、これから先も絶対に起きないとは言えません。ただ、起きるとしたら人が確認した上で起きるという状態にはなりました。これは大きな違いだと思っています。
「全部自動」にしなかったのは、こわがりだからではない
正直に言うと、最初は全部自動にしたい気持ちがありました。発行まで通せば、人の手はゼロになります。
やめた理由は2つあります。
ひとつは、取り消せないから。やり直せる作業とやり直せない作業では、失敗したときのコストがまったく違います。やり直せる作業の自動化は、失敗しても学習ですが、やり直せない作業の失敗は、そのまま相手先への迷惑になります。
もうひとつは、人が見ないと気づけない種類の間違いがあるから。データとしては正しくても、「この宛先にこの品名は、たぶんおかしい」という違和感は、担当者が画面を見た瞬間に気づきます。この違和感は、まだ機械には出せません。
自動化を始める人へ、線の引き方
これから自動化を進めるなら、紙に2列で書き出すところから始めるのをおすすめします。
| 自動にしてよい | 人が最後に押す |
|---|---|
| 情報を集める | 発行・送信・公開する |
| 転記する・並べる | お金が動く操作 |
| 下書きを作る | 取り消せない操作 |
| 確認画面を出す | 相手に届いてしまう操作 |
判断の基準は、作業が難しいかどうかではなく、間違えたときにやり直せるかどうかです。難しい作業ほど人がやるべき、と考えると、たいてい自動化は進みません。逆に、簡単でも取り消せない作業は人に残す。この基準にすると、線がはっきりします。
そして、その線はその日の忙しさで動かさないこと。急いでいる日ほど、ボタンひとつ飛ばしたくなります。飛ばしたくなる日こそ、線が効いている日です。
まとめ
自動化のコツは、どこまで機械に任せられるかを競うことではなく、任せた先に人の指を1本だけ残しておくことでした。残す場所を先に決めておくと、それ以外は思い切って任せられます。安心して自動化を広げるための、いちばん現実的なやり方だと思っています。
※本記事は、筆者が自社で実際に運用している一例です。扱う商品・配送方法・使っているシステムによって、適した設計は変わります。導入する際は、まず少量の件数で試してから広げることをおすすめします。

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